し、一歩踏み出すと身長《せ》を縮《すく》め、相手の左胴を上斜めに、五枚目の肋《あばら》六枚目へかけ、鐘巻流での荒陣払い、ザックリのぶかく[#「のぶかく」に傍点]掬い切った。
 痣のある武士、ムーッと呻くと、ポタリと刀を落としたが、全身を弓のように蜒《うね》らせると、ヒョロヒョロヒョロヒョロと前へ出た。
 と、小一郎は、抑えた呼吸で、ヒョイと刀を手もとへ引いた。連れてドッタリ斃れた敵、ドクドクドクドクと流れる血、下は腐葉だ、滲み込んでしまった。瞬間に二人を討って取られ、浮き足立った一ツ橋家の武士達、思わずタジタジと引くところを、
「参るゾーッ」と声をかけ、ヌッと右足を踏み出したのは、追い迫る気勢を示したのである。胆を奪われた一ツ橋家の武士ども、刀を引くと一息に、元来た方へ逃げてしまった。
 追っかけると見せて身を翻えし、岩角まで飛び返った小一郎は一瞬耳を澄ましたが、「いるな」と呟くと一躍した。はたして七、八人そこにいた。真っ先に立ったは頬髯のある武士で、突然小一郎に飛び出され、ギョッとして一足引くところを、
「参るゾーッ」と例の大音、まず一喝くれて置いて、毬のように弾んで飛びかかったが、
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