た。
 で少しも取り乱さなかった。とは云えやっぱり悲しくもあれば、また恐ろしくも思われた。で、泣きながら身顫いをし、顔から袖を放さなかった。
 その間も南部集五郎の声は、戸口を通して聞こえて来た。
「三尺になるのも間もあるまい! 四尺になるのも間もあるまい! 五尺六尺となるだろう! 部屋が滝の水で一杯になろう。と窒息だ! すなわち溺死!」
 ザ――ッ、ザ――ッと滝の音が、伴奏のように聞こえて来る。
 と、またもや集五郎の声が、「腰まで浸《つ》いた! 腹まで浸いた! おおとうとう胸まで浸いた!」
 ザ――ッ、ザ――ッと滝の音!
 と、また集五郎の声がした。
「喉まで浸《つ》いたぞ! 頤《あご》まで浸いたぞ!」
 ザ――ッ、ザ――ッと滝の音!
 つと[#「つと」に傍点]華子は踏み出した。「まだ云わぬか! 汝《おのれ》強情! 云え云え云え、蝶の在家《ありか》を! まだ助かる、さあ桔梗!」
 ヌ――ッと杖を突き出した。キラキラ光る黄金の杖! 水銀色の醂麝液が、その尖端で顫えている。
 だがとうとう聞こえ来た。「口まで浸《つ》いたぞ! 鼻まで浸いたぞ! 水が全身を乗り越したぞ! 姿が見えない! 
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