梗様と来ては、清浄で、美しくて、自由で無邪気で、いかにもいかにも処女というものを、掬い固めたような俤《おもかげ》がある。
 この二人の対照は、全く一幅の絵と云っていい。
 まだ二人は黙っている。
 と、どこから来たものか、四方雨戸をとざしてあるのに、一匹の火捕《ひと》り虫が飛んで来た。バタバタバタバタと雪洞へ中《あた》る。
「遅いの」と不意に隅田のご前は、独り言のように呟いた。それが桔梗様の気にかかったらしい。
「誰をお待ちでございます!」
「ああ待ち人かな、泥棒さん達だよ」隅田のご前は道化出した。「私はな、大変な大泥棒だ。で沢山手下がある。その手下を待っているのだよ」無邪気な可愛い桔梗様を、嬲《なぶ》ってみるのが面白いのらしい。
「おやおやさようでございますか」桔梗様は一向驚かない。「妾もお待ち致しましょう」
「ご用でもあるかな、私の手下に」
「はいはい沢山ございますとも、参りましたらとっ[#「とっ」に傍点]捉まえ、忍び込みの術を教わります」
「あッ、話はそこへ行くのか、忍び込みの術を教わって、その恋しいお侍さんを、探しに行こうというのだの」
「はいはいさようでございますとも。でもね
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