「これでよろしい、方向《むき》をお変え! 芹沢を目指して一直線! 乗っ切れ、乗っ切れ、さあ乗っ切れ!」
 方向を変えた筏船は、帆鳴りの音を響かせて、しんしんしんしん[#「しんしんしんしん」に傍点]と走り出した。
 有髪の老尼は何者であろう?
 街道を走って行く尼の行列は、どういう身分の者だろう?
 もちろん今は解らない。
 とはいえ両者は味方らしい。
 そうして両者の行先は、芹沢の郷に相違ない。
 とにかく水陸呼応して、奇怪な尼僧の一団が、月の明るい更けた夜を、走り走って行くのである。

 ここは芹沢の郷である。七福神組の怪盗七人が、一ツ橋勢に遮られた。
 ドッとあがったは喊声である。一ツ橋家の武士どもが、同音にあげた喊声である。と、同時にキラキラと、月にきらめく[#「きらめく」に傍点]もの[#「月にきらめく[#「きらめく」に傍点]もの」は底本では「月にきらめ[#「にきらめ」に傍点]くもの」]があった。彼らの構えた太刀である。
 グ――ッと一列に押し列《なら》び、来い! 通さぬ! と構えたのである。
「先廻わりをされたよ、残念だねえ! しかしナーニびくつく[#「びくつく」に傍点]ものか!」こう云ったのは松代である。
「さあさあみんないつもの手だ! 卍《まんじ》廻わりに押し廻わり、突き破って行こう、切り抜けて行こう!」
「合点」と云ったのは六人の部下で、で、グルグルと廻わり出した。
 卍廻わりとは何んだろう? 彼ら独特の戦術なのであった。手組輿《てくみごし》の上へ桔梗様を乗せ、群像のように塊《かた》まった。七福神組六人が、塊まったままで廻わるのであった。まず左へグルグルと廻わる。それから右へグルグルと廻わる。それからまたも左へ廻わり、それからまたも右へ廻わる。これを無限に繰り返すのである。そうしてそのように廻わりながら、先へ先へと進むのである。廻わる間も進む間も、右手の太刀を前方へ突き出し、それを上下へシタシタと戦《そよ》がせ、敵を寄せ付けまいとするのである。
 ただし頭《かしら》の松代ばかりは、一団から離れて先頭に立ち、「左へお廻わり! 右へお廻わり!」こんなように指揮するのである。
 今やグルグル廻わり出した。
 何という変わった見物《みもの》だろう?
 月が上から射している。で、白刃がキラキラする。輿の上にいる桔梗様は、蒼白い顔を月光に曝らし、廻わされるままに
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