かえ?」
「あんまり辻褄があっているからさ」
一〇
それから岡八嘲るように、ニヤニヤ笑いながらいい出した。
「巧んだ事件というやつは、例えどんなにコンガラガッていても、どこかで辻褄が合うものだ。作り話だって同じだァね。だがあの話は面白かった。旨く辻褄を合わせて見せよう。第一に辻斬の侍だが、ありゃァ将軍家ご連枝の、若殿様と見立てるんだなあ。新刀試しをしたことにするさ。お縫様屋敷のあの辺は、人家がなくて寂しくて、そんなことをするにはいい場所だ。捕方の連中に囲まれた時ポンと胸のあたりを打ったというから、こいつを大いに役たたせよう。葵の御紋があったとするのさ。満月の晩だからよく解らあ。で、捕方の面々ども、手が出せなくて『へー』と平伏……これだけで片がつくじゃァねえか。……切りたおされた手代だが、染吉の朱盆を持っていたとするさ。つまり主人のいいつけで、染吉の所から持って来たのさ。追っかけて来た職人は、当然染吉とするんだなあ。染吉という男名人気質で、自作にひどく愛着を持ち、人に渡すのを厭やがったというから、取り返しに来たと見立てるがいい、手代がそこにたおれている、朱盆をちゃんと持っ
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