。岡八、屋敷へ忍び込んだのである。
その翌日のことである。
「兄貴家かえ」とやって来たのは、他ならぬ岡引の半九郎であった。
「昨日出たきり帰らないよ」
こういったのは岡八の女房、鳥渡仇めいた女である。
「兄貴としちゃァ珍しいね」
「私も心配しているのさ」
「で、矢っぱりご用でかい?」
「半九郎の奴に鼻あかせてやる、こういいながら出て行ったよ」
すると半九郎笑い出してしまった。
「アッハハハこいつァ面白え。少し兄貴も若|耄碌《もうろく》をしたな」
「なぜさ?」とお吉《よし》――岡八の女房――怒ったようにきき返した。
「ナーニこっちの話でさ。……あそれじゃあ姐御、また来やしょう」
往来へ飛出したが吹出してしまった。
「あの物語りの謎解きをしようと、探ぐりに出たとはどうかしているよ。岡八の兄貴もヤキが廻ったなあ。そんな年でもない癖に」
その翌日のことである、またも半九郎尋ねて来た。
「姐御、兄貴はお家かね?」
「それがさ、半さん、どうしたんだろう、いまだに帰って来ないんだよ」
お吉の顔に憂色がある。
「へえ」といったが半九郎も、眉の間へ皺を寄せた。
「おかしいなあ、何んてえこと
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