りましてござります」
其処で九郎右衛門は改めて、その事件に就いて物語った。
その物語は既に以前に、九郎右衛門に代って此|作者《わたし》が、大略書き綴った筈である。……
兎に角、斯うして九郎右衛門は、王ご夫婦と皇子とを、お救助けすることが出来たのであった。親子の対面が行われた時、どんなに皆が歓喜したか? 説明にも及ぶまい。
間も無く王朝は恢復された。そうして日本と柬埔寨国との通商貿易も行われるようになった。
「しかし、どうして王、王妃は、叛軍共の目を眩まして、牢獄から出ることが出来たのであろう?」
――審《いぶ》かしそうに忠清は訊いた……。
「忠義の臣下が、隙を伺い、盗み出したのだそうでござります。……覆面をした水夫の群こそ、その臣下達でござりました」
「浮沈自由の奇怪の船、その後何んと致したな?」
「撃沈めましてござります」
「それは又何故に沈めたか?」「兵器は兇器でござります故……」
「如何にも左様じゃの」と、酒井忠清は、呟き乍ら頷いた。
「左様な兇器の働かぬ世が、どうぞ何時迄も続くように」
「御世は万歳でござります!」赤格子九郎右衛門は老いても鋭い、その両眼を輝かせ乍ら斯う磊落《らいらく》に叫んだが、その声の中、風貌の中には、壮者を凌ぐ勇猛心が、尚鮮かに見えていて一座の名賢奇才達をして、却って顔色無からしめたのである。
底本:「妖異全集」桃源社
1975(昭和50)年9月25日発行
初出:「中学世界」
1924(大正13)年6月
※底本には以下に挙げるように誤植が疑われる箇所がありましたが、正しい形を判定することに困難を感じたので底本通りとし、ママ注記を付けました。
○常時利休は:「当時」の誤植か、旧字の「當」を新字にする時に間違った可能性を疑いました。
○復心:「腹心」の誤植か。
○明瞭《はっきり》り:別箇所に「明瞭《はっきり》した」があり、「明瞭《はっきり》した」か「明瞭《はっき》りした」か判断がつきませんでした。
入力:阿和泉拓
校正:門田裕志、小林繁雄
2004年12月13日作成
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