に喜んだが、そういう名器であって見れば、迂濶に左右に置くことも出来ぬ。で、利休へ預けたのである。
 常時[#「常時」はママ]利休は茶博士として生きながら居士号を許された名家、且は秀吉の師匠ではあり、城内に屋敷を賜わって並び無き権勢を揮っていたが、名器楢柴を預かって以来、度々怪異に襲われるようになった。
 或夜、利休は供も連れず静かに庭を彷徨っていた。さび[#「さび」に傍点]と豪奢とを一つに蒐め、彼自ら手を下して造り上げたところの庭であるから、一本の木にも一坐の山にも悉く神経が通っている。
 彼は亭《ちん》の前まで来た、其横手に石燈籠が幽《かすか》に一基燈っている。
「はて」と不思議そうに呟き乍ら、彼は其前に彳《たたず》んだ。どう考えても其辺に石燈籠があるわけが無い。其処には燈籠は置かなかった筈だ。そこに燈籠のあるということは、彼の流儀に反している。
 で彼は小首を傾げながら、何時迄も其前に立っていた。
 すると、あやしくも、燈籠の火が、次第々々に明るくなり、空に太陽でも出たかのように庭一面輝き渡ったが、次の瞬間には忽然と消えて、今迄在った燈籠さえ何処へ行ったものか影も無い。
 利休は思
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