を救い出し、無事にご対面出来ますようお取計い致しましょう。手近の浜辺に某《それがし》の率る大船|碇泊《ふながか》りして居りますれば、まず夫れへご遷座なされますよう」
 斯うして九郎右衛門は皇子を背負い、自分の船まで帰って来た。そして船中|主立《おもだ》った者を、窃に五人だけ呼び寄せて、其夜の出来事を物語った。
 それから九郎右衛門は斯う云った。
「何より先に呂宋まで急いで船をやらずばなるまい。そこで積んで来た荷を卸し改めて柬埔寨へ渡るとしょうぞ」
「心得申した」と五人の者は、恭く一度に頭を下げた。彼等に執っては九郎右衛門は、無限の権力を持った君主なのである。
 その翌日からコマ皇子は、日本の衣裳を着せられて日本流に駒太郎と呼ばれるようになった。そうして船も其日から有るだけの帆を一杯に張って、南へ南へと下だり出した。麗かな日和がよく続いて、海上は何時も穏かである。程経て船は呂宋へ着いたが、呂宋には島井家の支店《でみせ》がある。そこで荷物を積み代えると船は海上を日本へ向けて、急いで取って返えしたのであった。併し此時、積荷と一緒に多量の煙硝や弾丸や、刀槍の類を窃《こっそ》りと、船内へ運搬され
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