、あの千賀子という女巫女は)
「おおさようか、で、何処《いずこ》へ?」
「まずお聞きなさりませ」
年は二十八九であろうか、帷子《かたびら》に小袴をつけている。敏捷らしい顔立ちのうちに、一味の殺気の凝《こ》っているのは、善良でない証拠と云えよう。醍醐弦四郎の部下と見えて弦四郎に対しては慇懃《いんぎん》である。
「まずお聞きなさりませ」
半田伊十郎は話し出した。
「ご貴殿のお指図《さしず》がありましたので、昨夜より私茅野雄めの邸を、警戒いたしましてござります。ところが今朝になりまして、にわかに旅支度をいたしまして、茅野雄には邸を立ちいでましたので、すぐに私|事《こと》玄関へかかり、茅野雄の友人と偽わりまして、行く先を詳しく訊ねましたところ、僕《しもべ》らしい老人の申しますことには、飛騨の国は高山城下より、十五里あまり離れましたところの、丹生川平《にゅうがわだいら》という一つの郷《ごう》へ、参りました旨語りましたので、早速お耳に入れたく存じて、お邸へ参上いたしましたところ、ご外出にてご不在とのこと、そこで止むなくお約束の場所の、ここでお待ち受けいたしますうちに、お姿をお見かけいたしました
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