雄は行くことに定《き》めた。が、これを一面から見ると、巫女《みこ》の占った運命の一つが、適中したという事になる。
では次々に巫女の占いが適中しないとは云われない。
茅野雄は「何か」を手に入れるであろうか?
その「何か」とはどんなものであろう?
その翌日のことであったが、松倉屋勘右衛門の邸の中で一つの事件が起こっていた。
「お前は旦那様に憎まれているねえ」
「はい奥様、そんな様子で、私は心配でなりませぬ」
「妾がお前を贔屓《ひいき》にするからだよ」
「はい奥様、さようでございますとも」
「旦那様はお前を嫉妬《やい》ているのだよ」
「どうやらそのようなご様子に見えます」
「お前の縹緻《きりょう》がよいからだよ」
「奥様ありがとう存じます」
「妾がお前を贔屓にするのも、お前の縹緻がよいからだよ」
「奥様、お礼を申し上げます」
「それにお前は気も利いているよ」
「はい奥様、ありがたいことで」
「それに妾に忠実だよ」
「はいはいさようでござりますとも。私は奥様のお旨とならば、火の中であろうと水の中であろうと、飛び込んで行く意《つもり》でござります」
「そうだよそうだよそういう性質だよ。
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