へ近寄って来たが、
「宮川茅野雄殿と仰せられるか、はじめてお名前を承《うけたま》わってござる。拙者は醍醐《だいご》弦四郎と申して、身の上の儀はまずまず浪人、ただしいくら[#「いくら」に傍点]かは違いますがな。……いかにも貴殿の仰せられる通りに、拙者、貴殿に怨みはござらぬ。と云え貴殿の仰せられるように、人違いで切ってかかったのでもござらぬ。思うところあって切り付けたのでござる。と云うのは貴殿の運命と、――巫女から買い取られた運命と、拙者の運命とが似ているからでござる」
こう云うとクックッと含み笑いをしたが、
「実は拙者も同じ巫女から、運命を買ったのでございますよ」
「ほほう」とそれを聞くと宮川茅野雄は、化《ば》かされたような気持ちがしたが、
「貴殿の買われた運命と、拙者の買い取った運命とが、似ているというようなそのようなことが、殺生沙汰を招きましょうかな?」
「運命を占った女巫女の、素性をご存知ない貴殿としては、そういう疑念を挿まれるのは、当然至極と存ぜられますよ。またあの巫女の占ったところの、『何か』得られるというその『何か』の、何であるかをご存知なければ、そういう疑念も挿まれましょ
前へ
次へ
全200ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング