ようである。
で、月光に照らされながら、松倉屋勘右衛門の邸の前に、首を傾《かし》げて佇んでいるのは、宮川茅野雄一人となった。
(今夜は実際いろいろの人から、色々の面白い話を聞いた。松倉屋勘右衛門と女房との話も、俺にとっては面白かった。それとはハッキリと云わなかったが、一ツ橋様のお話の中には、莫大の価値のある何かの両眼と、松倉屋勘右衛門との間には、何らかのつながり[#「つながり」に傍点]がありそうだ)
しかし、その事が宮川茅野雄の持ちつづけて来た好奇心を、急速に膨張させたのではなかった。
そんなように思われたばかりであった。
(どれ家《うち》へ帰ろうか)
で、茅野雄は歩き出した。
しかるに十町とは歩かないうちに、茅野雄の身の上に不慮の事件が起こった。
と、いうのは茅野雄は感付かなかったが、茅野雄が巫女《みこ》めいた若い女から、自分の運命を買った時から――いや巫女めいた女から別れて、極東のカリフ様と碩寿翁との、後をつけて足を運び出した時から、一人の武士が足音を盗んで、茅野雄の後をつけて来たが、この時俄然と茅野雄の背後《うしろ》から、声もかけずに切り込んだのである。
茅野雄は蘭
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