しかしこの時意外の意外として、洞窟の外とも思われる辺りから、素晴らしく高い大勢の讃歌の声が聞こえてきた。

 ここは洞窟の外である。
 六尺ぐらいのアラ神の像を、神輿《しんよ》に舁《か》きのせた数百の男女が、洞窟の入り口に屯《たむろ》していた。
 数人の武士がその中にいたが、何と高手小手に縛られているではないか。醍醐弦四郎とその部下とであった。
 そうして群衆は白河戸郷の、郷民達に他ならなかった。
 その証拠には群衆の中に、以前に宮川茅野雄へ向かって、道を教えたことのある、また、同じ宮川茅野雄を、暗夜に襲って殺戮しようとした、老樵夫《ろうそま》のような人物が――もっとも今は威厳と信仰とを、具現したような風采をしている――白河戸|将監《しょうげん》その人が、娘の小枝《さえだ》を側《そば》に立たせ、自身も神輿の横に立って、郷民達と讃歌をうたっていた。
 見れば大勢の郷民の中に、巫女《みこ》の千賀子も雑《まじ》っていれば、刑部《おさかべ》老人も雑っており、松倉屋勘右衛門も雑っていれば、杉次郎も弁太もお菊なども、同じように雑っていた。
 一ツ橋慶正卿の言葉に従い、まず将監は白河戸郷の山岳宗教境を破壊した上、千賀子の元から奪い取り白河戸郷の神体としたアラ神の像を神輿に納め、「神像の完璧」を行なうために丹生川平へ進んで行こうとした時、醍醐弦四郎とその部下とが白河戸郷へ入り込んで来て小枝を奪い取ろうとしたのですぐに捕らえて縛り上げ、道々勘右衛門の一行と千賀子と刑部老人とを収容してここまで来たのであった。
 勿論彼らは丹生川平と、戦いをするために来たのではなくて、和睦《わぼく》するために来たのであった。
 やがて彼らの一団は、洞窟の入り口から中へ進み、間もなく神殿の前まで来た。
 行なわれたことは何であったか?
 この物語に関係のある、一切の人物と物品とが、一所に揃ったことであった。

 もうこれで物語は終えたと云ってよかろう。が、しかしながら極めて簡単に、――スチブンソンの「ニュウアラビヤンナイト」式に、説明を加える方がよいとならば、説明をすることにしよう。
(一)大金剛石を両眼に持った、アラ神の像は千賀子のもとに代々伝わっていたものであったが、その一眼を覚明が奪い、他の一眼を何らかの手段で、松倉屋勘右衛門が手中に入れ、神像その物は白河戸将監が奪い、各々《めいめい》勝手に保存
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