いて、決死の姿で突っ立っていた。
しかしその次の瞬間には、切りかかって来た郷民の二人を、石段の上へ切り仆した茅野雄の、物凄い姿が見受けられた。
全く物凄いと云わざるを得ない。
乱れた髪、返り血を浴びた衣裳、はだかった胸、むきだされた足、そうして構えている刀からは、鍔越《つばご》しに血がしたたっている。が、そういう茅野雄の肩の、真上にあたる背後《うしろ》の方から、例の神像の一眼が、空から下りて来た星かのように、鋭い光を放っているのが、わけても凄く見えなされた。
しかもそういう茅野雄の前には、無数の郷民が打ち物を揃えて、隙があったら切り込もうと、ひしめき合っているのであった。
そういう郷民達の群の中に、ひときわ背高く見えている、妖精じみた老人があったが、他ならぬ宮川覚明で、杖を頭上にかかげるようにすると、
「神殿の扉を無断で開け、アラ神を曝露した涜神の悪人、茅野雄は教法の大敵でござるぞ! 神も虐殺を嘉納なされよう! 何を汝《おのれ》ら躊躇しておるぞ! 一手は正面からかかって行け! 一手は左からかかって行け! そうして一手は右からかかれ!」と、狂信者特有の狂気じみた声で、荒々しく叫んで指揮をした。
それに勇気をつけられたのであろう、三方から郷民達は襲いかかった。
その結果行なわれたことと云えば、正面から襲って行った一手の勢が、茅野雄のために切り崩され、なだれるように下りたのに引かれて、茅野雄も下へ下りた隙に、左右から襲って行った二手の勢が、段上を占めたことであった。
下へ下りた茅野雄を引っ包んで、郷民達の渦巻いている姿が、こうしてその次には見受け[#「見受け」は底本では「身受け」]られたが、しかしその次の瞬間には、渦巻が左右に割れていた。
と、その割れ目を一散に走って、黒石《アラオ》の方へ行く者があり、やがて黒石の上へ、片足を掛けて休んだ者が見られた。
数人の郷民を切り斃して、そこまで行った茅野雄であった。
「黒石を土足で穢した逆賊!」
すぐに覚明の喚く声がした。
「躊躇する汝らも逆賊であろうぞ!」
またも茅野雄を取り囲んで、人間の渦が渦巻き返った。
しかしその次には全く意外の、驚くべき事件が演ぜられた。
老人の声ではあったけれど、底力のある威厳のある声で、
「極東のカリフ様がおいでなされたぞ! 謹んでお迎えなさるがよろしい!」
つづいて威厳
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