一団は一人残らず、各自《めいめい》得物を持っていたが、その扮装《いでたち》には異《か》わりがなく、筒袖に伊賀袴を穿いていて、腰に小刀を帯びていた。精悍らしい若者達で、血色もよければ四肢も逞しく、いかにも飛騨という山岳国の、森林の中へ特殊の郷を設けて、生活をしている人間らしかった。
飛騨と信州とは接近しているので、自然も動物もよく似ていたが、彼らの乗っている馬と来ては、信州駒――わけても木曽駒に似ていて、背丈こそ低く、形こそ小さく、一見貧弱ではあったけれども、脚の強さ息の長さ、険しい山道を上り下りする場合に、決して転《まろ》びもせず膝も突かず、また縦横に入り乱れている木々の間を巧みに縫って、駛《はし》るに得意な点などにかけては、南部駒よりも、三春駒よりも、遥かに優れているのであった。
そういう駒に打ち乗って、丹生川平の男達が、今や丘から走《は》せ下り、森林の中を突破して、宮川茅野雄と醍醐弦四郎とが、切り合っている曠野の方へ、無二無三に押し出そうとしている。
いや押し出そうとしているばかりではなくて、事実無二無三に押し出して来て、瞬間に丘を走り下りて、森林の中へ走り込んだ。
で、その丘のなだらかな斜面は、蹄で蹴られて雲のように、ムラムラと上った砂煙りのために、一時全く蔽われたように見え、啼いていた小鳥の歌声も途絶え、飛び散って咲いていた草の花の、織り物のように鮮麗だった色も、砂煙りの奥へ消え込んでしまった。
が、その時分には騎馬の一団は、森林の中を走っていた。
いかに彼らが馬術に達し、熟練を極めていることか! 灌木があれば躍り越し、喬木があれば巡って進み、沼があれば岸を輪なり[#「なり」に傍点]に馳せ、網の目のように強靱の蔓が数間に渡って張られてあれば、得物で切り払って突破した。当然の所業《しわざ》ではあったけれども、何とその所作が敏捷で、かつ自在であることか!
と、一団が雁行《がんこう》をなした。馬の首が前方を走っているところの、他の馬の尻に触れそうなほどにも、接近をして走っておりながらも、前の馬の走る邪魔をしない。
と、一団が鶴翼《かくよく》をなした。宏大な森林を横へ拡がり、横隊をなして走らせて行く。無数の障碍物《しょうがいぶつ》を持ちながら、その障碍物を巧みに避《よ》けて、互いに呼び合うことによって、一定の間隔をいつも保ち、疾風のように走って行く。
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