ってでもいるように、細かく生白《なまじろ》く光って見えた。
(凄いの! これは! 凄い気魄だ!)
 物も云わなければ動きもしないで、茅野雄の動作と言葉とへ、注意を向けていた弦四郎は、こう思わざるを得なかった。
(正当に太刀打ちをしたところで、五分と五分の勝負になろう。小枝などを抱えていて、片手でうかうかあしらおうものなら、こっちがあぶない、仕止められるであろう。言葉をもって云いくるめようとしても、眩まされるような人物でもない。彼の云う通り小枝を放して、丹生川平へ逃げ帰るか、ないしは真剣に切り合うより、他に手段はなさそうだ。どっちにしても困ったものだ)
 弦四郎は処置に当惑した。
 しかしその時丘の背後《うしろ》から、今まで聞こえていた女達の悲鳴や、男達の喚き罵っていた声が、急にこなたへ近寄って来て、すぐに九人の荒くれた男が、若い女を一人ずつ抱いて、丘の陰から走り出て、こっちに走って来るのが見えた。
 丹生川平の若者達で、女は小枝の侍女達であった。弦四郎が小枝を奪ったのを習って、一人ずつ侍女達を奪って来たのであった。
 と、見て取った弦四郎は、しめた! とばかり心で想った。
「方々!」と、そこで大音に、若者達へけしかける[#「けしかける」に傍点]ように云った。
「この武士を打ってお取りなされ、我ら小枝を奪ったのに対して、こ奴は邪魔立て致そうとしております! 我々の怨敵白河戸郷に、味方を致す人間と見えます! 女子どもを打ち捨ておかかりなされ!」
 この言葉は、極めて効果的であった。
(白河戸郷に味方する奴なら、我らにとっては怨敵である! やれ! 逃がすな! 切り刻め!)と、云う感情を男達の心へ、一斉に理性なしに湧き起こさせたのであるから。
 ワ――ッというような叫声が、九人の男から起こった時には、九人の若い侍女達が、地上へ抛《ほう》り出された時であり、九本の刀が夏の日の光に、氷柱《つらら》のように光った時であり、意外の出来事に驚いて、棒立ちに立った茅野雄の左右へ、男達の逼った時であった。
 男達の凄じい殺気立った顔と、虐殺することを喜んでいるらしい、男達の悪鬼じみた[#「じみた」に傍点]態度とは、茅野雄をして口をひらかせて、事の真相を弁解させるべく、無駄であることを思わせた。

五人を切った宮川茅野雄

(こうなってはもういけない! 相手を切らなければこっちが切られる)
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