のである。
「どうであったか?」とその人は云った。
「はい」とお蝶は微笑したが、「大体うまく参りました」
「歌を聞かせてやったろうな」
「聞かせてやりましてございます」
「今度のことばかりは気永に構え、そろそろとやらなければ成功しがたい。暴力や権威をもってしても、歯の立つことではないのだからな」
「はい、さようでございますとも」
「直接本人にぶつかっても、口を割らない事件ではあるし」
「はい、さようでございますとも」
「それで傍流から手をつけたのが……」
 こう云って来て貴人のような武士は、円行灯《まるあんどん》の黄味を帯びた光に、正しい輪郭を照らしていた顔を、にわかに傾《かし》げて聞き耳を立てたが、急に立ち上がると円窓を開けた。
 窓の外は狭い坪庭《つぼにわ》であって、石灯籠や八手《やつで》などがあった。その庭を囲んでいるものは、この種の妾宅にはつき[#「つき」に傍点]物にしている船板の小高い塀であった。
「これ、誰だ!」と武士は云った。しかし坪庭には人はいなかった。ただ横手の露路へ出られる、切り戸口の傍らに立っている、満開の桜の下枝から、花が散っているばかりであった。
「どなたか?
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