田の筋へ来た頃には、町へ灯火が点きはじめた。
 身長《せい》は高かったが痩せていた。苦痛のために痩せたものらしい。眼が眼窩の奥にあった。苦痛のために窪んだのであろう。瞳が曇って力なげであった。歩く足もとが定まらない。放心したように歩いて行く。――これがお島の姿であった。
 ふとお島は振り返って見た。と、一人の侍が、彼女の背後《うしろ》から歩いて来ていた。
(薬売りの言葉は嘘ではなかった)
 そう思ってお島は安心した。
(では一切あの男の言葉を、妾《わたし》は信用することにしよう)
 彼女は溺れかかっているのであった。藁《わら》をさえ掴まなければならないのであった。藤兵衛の言葉は藁と云ってよかった。
 ――どうして自分の身の上と、どうして自分の心の苦痛と、どうして自分の病気のこととを、あの薬売りは知っているのであろう? ……これが彼女には不思議であった。
 不思議ではあったがどうでもよかった。あの男が妾を救ってくれるのなら。で彼女は云われるままに、品川へ行こうとしているのであった。一人の立派なお武家様が、蔭身《かげみ》に添ってあなた様を、お守りなさるでございましょうと、こうあの薬売りの男
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