歩いていても、そうだということは知らなかった。
(一言二言鋭い口調で、叱るように何か云ったかと思うと、争闘をしていた二組の者や、有名な十二神《オチフルイ》氏というような人まで、その言葉に驚いて逃げてしまった。よほど偉大なる人物でなければならない)
いったいどういう人物なのであろう? この疑問が新八郎をして、その人の後をつけさせることにした。
「殿」とその時家来らしい侍が、館林様へそういうように云った。「お止めにならなかった方がよろしゅうございましたのに」
「いや」と館林様はすぐに云った。「もうあれ[#「あれ」に傍点]はあれでよかったのだ」
「ははあさようでございましたか」
「伊豆は第二の人物で、やっつける必要はないのだからな」
「それはさようでございましょうとも」
「元兇の方をかたづけなければ嘘だ」
「それはさようでございましょうとも」
八
「私のお父上のご生存中は、田沼という男も今日のように、ああも僣上《せんじょう》な真似はしなかった」
「それはさようでございましょうとも。殿のお父上右近将監様は、御老中におわすこと三十八年、その間にご加増をお受け遊ばしたこと、わ
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