添い、警護するように現われた。
 これだけでは異様とは云えまい。
 しかるにその後から蒔絵を施した、善美を尽くしたお勝手|箪笥《だんす》が、これも四人の武士に担がれ、門から外へ出たのである。
 異様な行列と云わざるを得まい。がもし新八郎が近寄って行って、先に出た長方形の箱を見たなら、一層に異様に思ったことであろう。
 その箱が桐で出来ていて、金水引きがかかっていて、巨大な熨斗《のし》が張りつけられてあり、献上という文字が書かれてあるのであるから。
 行列は無言で進んで行った。
 半町あまりも行き過ぎたであろうか、その時露路に隠れていた、例の一団が、往来へ姿を現わして、その行列をつけ[#「つけ」に傍点]出した。
 しかし行列の人達に、目付けられるのを憚るかのように、家々が月光を遮って、陰をなしているそういう陰を選んで、きわめてひそやかにつけ[#「つけ」に傍点]て行った。
 新八郎の好奇心は、いよいよたかぶら[#「たかぶら」に傍点]ざるを得なかった。でこれも後をつけた。例の屋敷の前まで行った時、それが松本伊豆守の別邸であることに感付いた。
「ふうん」
 と何がなしに新八郎は呻いた。不安と憎
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