ほどであった。
貝十郎はそっちへ進んだ。入り口の前まで歩いて行った時、彼は女の泣き声と、そうして男の叱る声とを、その建物の中から聞いた。
(オーヤ、オーヤ)と彼は思った。(ここでは女が虐められている。反対側のあっちの庭では、男と女とが愛撫し合っていたが)
彼はしたたかに酔っていた。そうして彼は与力であった。与力としての精神と、酔漢としての戯心《たわむれごころ》とで、彼は真相を知ろうと思った。
で、足音を忍ばせて、建物の中へはいって行った。泣きながら女の喋舌《しゃべ》る声が、すぐ彼へ聞こえて来た。
「妾《わたし》、もうもう待てません。……これではまるで嫐《なぶ》り殺しです。……今夜こそ……どうしたって……でなかろうものなら……」
男の叱る声が聞こえた。
「ね、あっちへ行っておいで。……お前の心は解っているよ。……が、しかしそう性急には……物事にはすべて順序がある。あの……娘《こ》を……ね、三保の方を……三保は年頃になっているのだから。……それに私《わし》には仕事がある。……これもどうしたって仕上げなければならない。……だからこそ私《わし》はこんな所へ……ああそうだよ。こんな所へこ
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