れはそれとして館林様の仕立てた、『ままごと』や献上箱にはどのような物が、入れられてあるのでございましょうか。ちょっと見たいように思われますよ。実はそいつを見たいがために、拙者わざわざ貴殿の後から、田沼侯の邸へ行ったのでござるが、貴殿がほとんど死を決した様で、田沼侯の邸へ無鉄砲至極にも、切り込みをなさろうとなさるので、ようやくここまでお連れした次第。……敵の兵糧で味方が肥える。さあさああいつらの『ままごと』の中の、ご馳走で我々飲食しましょう。……ソレここに……もござる。構うことはない酒に混ぜて召され。その上で……をな、ハッハッハッ、お尽くしなされよ。お品殿はやつれて青褪めておられる。恢復なされ恢復なされ!」
十四
この頃京橋の、館林様の邸内の、奥まった部屋で館林様は、女勘助や神道徳次郎や、紫紐丹左衛門や鼠小僧外伝や、火柱夜叉丸や稲葉小僧新助などと、酒宴をしながら話していた。
「やくざな奴らでございますよ。私の手下ながらあの奴らは!」女の姿をした女勘助が、謝るようにそんなように云った。「同心めいた二人の侍が、後からあわただしく追っかけて来て、館林のお殿様が仰せられた、『ままごと』と献上箱とは神田神保町の、十二神《オチフルイ》貝十郎の邸まで、予定を変えて運んで行くように、と、こう私達に、云いましたので、そこで私達はその通りにしました。と手下《あいつ》ら云うじゃアございませんか、……ところがお殿様に承われば、そんなご命令はなかったとの事、やくざな奴らでございますよ、私の手下ながらあいつらは! 肝心な二品を横取られてしまって」
女勘助の手下達が、へま[#「へま」に傍点]をやったことを女勘助が、館林様へ詫びているのであった。
「十二神《オチフルイ》貝十郎は与力の中では、風変わりの面白い奴だ。そこの邸へ運んで行ったのなら、まあそれでもよいだろう」
館林様は案外平然と、怒りもせずにそんなように云った。
「今度の仕事には間接ではあるが、最初から十二神《オチフルイ》貝十郎が、関係をしていたのだからな」
「それはさようでございますとも」
易者姿をした神道徳次郎が云った。
「田沼の邸前で私達が、ままごと狂女達を雨やどりしながら、何彼と噂をしているのを、あの貝十郎が少し離れた所から、同じように眺めておりまして、大分考えていた様子でしたから、何かやるなとこのように思
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