手で制し、
「供は不用ぬよ」
と抜出した。
二、三町行くと懐中から、頭巾を取り出したものである。と見ると一軒の駕籠屋がある。つと這入った赤川大膳、
「駕籠一挺、早いところを」
ポンと乗ると駆け出させた。本陣から駕籠に乗らなかったのは、秘密を尚《たっと》んだからであろう。
「山内伊賀殿はさすがに知恵者、旨いところを見抜かれたものだ。世間に評判を立てて置いて、迎えに来るのを待っている! 成程な噂に高い乞食、その辺に目星をつけているのだろう。そこで俺が迎いに行く。さあて何んな応待で其奴の本性見破ろうかな? 意外に偉い人物で、恥でも掻かされたら耐らない。ヤクザ者なら叩っ切る。こっちの方から手間暇は不可ぬ。野武士時代の蛮勇を揮い、スポリと一刀に仕止めるだけさ。……それは然うと此処は何処だ?」
駕籠の戸をあけて覗いたが、
「よろしい、ここで下ろしてくれ」駕籠から出ると
「それ酒手だ」
「これは何うも、莫大もない」
喜んで帰る駕籠|舁《かき》を見すて、赤川大膳先へ進んだ。
薄墨のように淀川堤、眼の前に長く横仆わっている。人家も無ければ人気もない。見下ろせば河原で枯れ蘆が、風に吹かれて揺れ
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