と、声もろともに、左右から二人切り込んだ。
「やっ!」「やっ!」とただ二声。それで勝負は着いたのである。地上には二人の白縮緬組が刀を握ったまま仆れている。
 後に残った七人は、一度に刀を手もとに引いて、身体を守るばかりであった。
 その時、ヒラリと駕籠の垂れが、風もないのに飜《ひるが》えったかと思うと、電光《いなずま》のように飛び出して来たのは白毛を冠った犬であった。
「やあ、お犬様だ!」
 と、白縮緬組は、驚きの声を筒抜かせた。

        五

 さすがは名犬、源氏太郎は、早速には飛びかかっても行かなかった。鼻面を低く地に着けて、上眼で敵を睨みながら、陰々たる唸りの声を上げ、若衆の周囲を廻り出した。相手を疲れさせるためでもあろう。
 若衆は刀を下段に構え、廻る犬に連れて廻り出した。時々「やっ」と声を掛けて犬に怒りを起こさせようとする。誘いの隙を見せた時、犬は虚空に五尺余りも蹴鞠《けまり》のように飛び上がったが、パッと咽喉もとへ飛びかかる。
 掛け声も掛けずただ一閃、刀を横に払ったかと思うと「ギャッ」と一声声を揚げたまま、源氏太郎は胴を割られ二つになって地に落ちた。
「切ったわ
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