…恐ろしくて恐ろしくて……」
「そうか。……では……」
と云って、総司は体を開くようにした。
二人は部屋へ這入った。夜具が敷かれてあり、枕元に、粉薬だの煎薬《せんじぐすり》などが置いてあるのを見ると、女は、ちょっと眉をひそめたが、総司が、その夜具の上へ崩れるように坐り、はげしく咳《せき》入ると、すぐ背後《うしろ》へ廻《まわ》り、背を撫《な》でた。
「忝《かたじ》けない」
「いえ」
行燈《あんどん》の光で見える総司の顔色は、蒼《あお》いというより土気色であった。でも、新選組の中で、土方歳三《ひじかたとしぞう》と共に、美貌《びぼう》を謳《うた》われただけあって、窶《やつ》れ果ててはいたが、それが却《かえ》って「病める花弁《はなびら》」のような魅力となってはいた。それに、年がまだ二十六歳だったので、初々《ういうい》しくさえあり、池田屋斬込みの際、咯血《かっけつ》しいしい、時には昏倒《こんとう》しながら、十数人を斬ったという、精悍《せいかん》なところなどは見られなかった。
女は、背を撫でながら、肩ごしに、総司の横顔を見詰めていた。眉《まゆ》は円く優しかったが、眼も鼻も口も大ぶりの、パッ
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