田総司なら……」
 しかしその時、流弾が、隊士の胸を貫いた。隊士は斃《たお》れた。お千代は仰天し、走寄って介抱したが、もう絶命《ことき》れていた。
(妾ア何処までも総司様の生死を確める)
 と、お千代は、疲労と不安とで、今にも気絶しそうな心持の中で思った。
(そうして、総司様の前で、総司様から下された、縁切りのお手紙をズタズタに裂いて、妾は云ってあげる「いいえ、妾は、総司様の女房でございます」って)
 そのお千代が、下総流山の、近藤勇たちの屯所の門前へ姿を現わしたのは、四月三日のことであった。近藤勇や土方歳三などが、脱走兵鎮撫の命を受け、幕府から、この地へ派遣されたと聞き、恋人の総司もその中にいるものと思い、訪ねて来たのであった。しばらく門前に躊躇《ちゅうちょ》していると、門内から、二人の供を従え騎馬で、近藤勇が現われた。
「近藤様!」
 と叫んで、お千代は、馬の前へ走出し、
「沖田様は※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」
「お千代か!」
 と勇は、さもさも驚いたように云った。
「沖田か、沖田は江戸に居る。千駄ヶ谷の植木屋植甚という者の離座敷で養生いたしておる。……詳しいことも聞きたし
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