刀屋から、虎徹《こてつ》だと云って買わせられた、その実、宗貞の刀の柄を叩いてみせた。すると総司は却って不安そうに云った。
「しかし先生、これからの戦いは、刀では駄目でございます。火器、飛道具でなければ。……先生は、負傷しておられて、鳥羽、伏見の戦いにお出にならなかったから、お解りにならないことと思いますが、官軍の……いいえ、薩長の奴等の精鋭な大砲や小銃に撃捲《うちまく》られ、募兵は……新選組の私たちは散々な目に……」
この夜、燈火《ともしび》の下で、総司とお力とは、しめやかに話していた。従軍を断念したからか、総司の態度は却って沈着《おちつ》き、容貌《かお》なども穏やかになっていた。
「妾《わたくし》、あなた様から、お隠匿《かくまい》していただきました晩、あなた様、眠りながら、お千代、たっしゃかえ、たっしゃでいておくれと仰有《おっしゃ》いましたが、お千代様とおっしゃるお方は?」
と、お力は何気無さそうに訊いた。
「そんな寝言、云いましたかな」
と総司は俄に赧《あか》い顔をしたが、
「京都にいた頃、懇意にした娘だが……町医者の娘で……」
「ただご懇意に?」
とお力は、揶揄《やゆ》
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