形をして咲いている。家々の庭園には焔のような柘榴《ざくろ》の花が珠をつづり槎※[#「木+牙」、第4水準2−14−40]《さが》たる梅の老木の蔭の、月の光の差し入らない隅から、ホッ、ホッと燃え出る燐の光は、産まれ出た螢が飛ぶのであった。
 粋な、静かな、金雀子街の、その穏かな月光の道を、体を寄せ合った男女《ふたり》の者が、今、ひそやかに通って行く。
 何か囁いてはいるらしいが、この初夏の名月の夜の、あたりの静寂《しずかさ》を破るまいとしてか、その話し声はしめやかであった。時刻は十二時に近かった。そのためでもあろうか、この平和な屋敷町の往来を行き交う人は男女《ふたり》以外にはいなかった。二人の歩く靴の音だけが、規則正しく響いている。
 この時、往来の遙か向こうから、酒に酔っているらしい男の声で、詩《うた》を唄うのが聞こえて来た。しかもその声は近づくに従って詩の文句がややはっきりと聞き取れた
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古木天を侵して日已に沈む
…………
巨魁来巨魁来巨魁来
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 詩は北京《ペキン》で流行している例の不可解のそれであった。酔漢はその詩を唄いながら、だんだん二
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