警察官へ渡すにはあなたは余りに美しすぎる。それにあなたは東洋人だ。そして私も東洋人だ。同情し合おうじゃありませんか」
 張は一方へ身を除けながら、出口の扉《ドア》を開けてやった。すると女は猫のようにプラットホームへ飛び下りた。そしてそのままその姿を吹雪の闇へまぎれ込ませた。
 闇の中から女の笑う美しい声が聞こえて来た。
「美しい支那の貴公子よ! 今日はお前が勝ったけれどいつかは私が勝って見せる。沙漠で逢おうねまたお前さんと……私は沙漠の娘だよ。沙漠ではお爺さんが待っています。ではさようなら、さようなら!」
 ほんとにその声は美しい。張は石のように佇んだままその声の後を追っていた。恋愛《こい》を覚えた人のように。
 まだ車中では眠っていた。香爐からは煙りが上がっていた。

        八

[#天から4字下げ](以下は支那青年張教仁の備忘録の抜萃である)
 私達はオムスクで一泊した。翌朝早くホテルを出てイルチッシ河の河岸へ出た。流程二千三百|哩《マイル》、広々と流れる大河の態《さま》は大陸的とでも云うのであろう。一行は汽船へ乗り込んだ。セミパラチンスクまで行くのである。両岸はキルギス
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