っている。赤い土耳古《トルコ》帽に黄色い手袋、狐の毛皮の外套を着て紫の靴を穿いている。そして右手に青銅で造った日本の香爐を捧げている。大変小さい香爐ではあるがそこから立ち昇る墨のような煙りは強い匂いを持っていた。女は室内を見廻した。それから香爐を腰掛けへ置いてツカツカとこっちへ近寄って来た。少しも躊躇することなしに彼女はレザールへ走り寄った。同じようにちっとも躊躇せずに彼女はレザールの上着を剥いだ。それからチョッキをまた剥いだ。そして下着を引き破り胴巻に包んだ鉄の手箱をそこからズルズルと引き出した。彼女は胴巻を床へ棄て手箱を眼の前へ持って来てしばらく仔細に見ていたがようやく納得したと見えて外套の内隠《うちかく》しへしっかりと蔵《しま》いホッと初めて吐息をしてそのまま隣室の扉へ行ってドアの取手《とって》に手をかけた。しかし女が捻らない先に鉄の取手がガチャリと鳴って扉が向側《むこう》から押し開らいた。女は二、三歩よろめいた。その鼻先へ突き出されたものは自動拳銃の銃口《つつさき》である。女はまたもよろめいた。すると扉口から一人の男――料理人姿の東洋人――張教仁が現われた。
「手をお上げなさい
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