、「いいえそれには及びません。なるほどそうかも知れません。名誉の探偵でいらっしゃいますもの……それにしても本物のポンピアド様は、どうしていらっしゃらなかったのでございましょう?」
「たしか旅行中でございました」
「それではあなたはポンピアド様に断わらずにおやりなすったので?」軽く夫人は非難した。
「毎々のことでございますよ」レザールは愉快そうに微笑した。
「そんな権利がございまして?」と夫人の声はやや鋭い。
「さよう」とレザールは真面目になり、「私と、それにもう一人、私にとっては大先輩で、かつまた非常に仲のよい――奥様もあるいは名前ぐらいはご存知でいらっしゃるかもしれませんが――ラシイヌという探偵だけには、そういう権利がございますので。どうしてと申しますに我々二人は、政府の機密に参加したり、皇室のご依頼に応じたり、これまで数度その方面で働いたことがございますので、政府は我々二人の者へ特権を与えてくれました」
 すると夫人は頷いて、
「そうでございましょうね、よくわかりました。――ただ今お話しのラシイヌ様、知っているどころではございません。ただ今お逢いして参りましたので」
「ああそれじゃ
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