よ」レザールは微妙に云ったものである。
「全部を錯覚にするのだね?」ダンチョンは首を横に振って、「一度ならず二度までも一人ならず数人の者が、そういう獣を見たのだから、錯覚とばかりは云えないね」
「君の云うのが本当かあるいは僕の説が正しいか、探って見なければ解らないが、ただ怪獣が出たというばかりで世間の害にならないのだから、探って見ようという興味もない……依頼者でもあればともかくだが」
「しかし」とダンチョンは遮《さえぎ》って、「無害ということも云われないね。現にその獣に脅されて悲鳴をあげた者があるといって、この新聞にも書いてあるんだからね」
「無理に難癖をつけるとして秩序紊乱という奴かな。怪獣の秩序紊乱かな……どうも獣じゃ仕方がない――それとももしやその獣の……オヤ誰か来たようだ。こんなに朝早く来るからには火急の事件に相違あるまい」
 コツコツと扉を打つ音がした。
「おはいり」とレザールは声をかけた。扉が開いて一人の貴婦人があわただしげにはいって来たが、レザールとダンチョンの二人を見ると当惑したように立ち停まった。
 レザールは恭※[#二の字点、1−2−22]《うやうや》しく立ち上がっ
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