その日の夕方、林の彼方に噴煙が高く上がるのを見た。焼き打ちに遇った土人部落が火事を起こしているのであろう。夜に入ると焔《ほのお》の舌が、空にヒラヒラ現われた。
林の鳥獣は火光に恐れて小屋の根もとへ集まって来た。猪は鼻面で土を掘ってその中へ自分を隠そうとする。栗鼠《りす》は木の幹を上り下りしてキイキイ声で鳴きしきる。山鳩は空を輪のように舞って一斉に下へ落として来てもすぐまた空へ翔け上がる。豹は岩蔭で唸っているし水牛は萱《かや》の中で顫《ふる》えている。
火光は益※[#二の字点、1−2−22]拡がった。部落を悉く焼きつくしてどうやら林へ移ったらしい。
南洋原始林の大山火事!
鹿や兎や馴鹿《となかい》は自慢の速足を利用して林から林へ逃げて行く。小鳥の群は大群を作って空の大海を帆走って行く。斑馬の大部隊は鬣《たてがみ》を揮って沼の方角へ駈けて行く。
火足は次第に近付いて来る。煙りは小屋を引き包んだ。
私は拳銃《ピストル》をひっ掴み、土人乙女が置いて行った弓矢をダンチョンに手渡すや否や二人は小屋から飛び下りて、走る獣の中に混って風下の方へ逃げ出した。
三十三
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