女である。振り仰ぐ顔に月光が射して輪廓があざやかに浮かび出た。まごう方なき紅玉《エルビー》である!
 前後の事情をも打ち忘れて私は前へ走り出た。
「紅玉《エルビー》!」
 と私は絶叫して彼女を両手で抱こうとした。すると猩々が走って来て二人の仲を遮《さえぎ》った。鈴のような眼で私を睨み紅玉《エルビー》を背後へ庇《かば》おうとする。
「どなた!」
 と紅玉《エルビー》は、聞くも慕わしい昔通りの声で訊いた。
「どなたって俺に訊くのかい。張教仁だ! 張教仁だ!」
 しかし紅玉《エルビー》は感動もせずに、私の顔を見守ったが、
「張教仁さんて! どなたでしょうね? ……そうそうやっと思い出しました。そういうお方がありましたわ、ずっとずっと昔にね……羅布《ロブ》の沙漠で逢いましたっけ、芍薬《しゃくやく》の花の咲く頃まであなたと一緒におりましたわ……そして桐の花の咲く頃にあなたの所から逃げましたわ。けれどとうとう発見《みつか》って好きな好きな阿片窟からあなたの所へ連れ帰られてどんなに悲しく思ったでしょう……それからまたも逃げました。そうよ、あなたの所からよ……私には恋人がありますのよ。可愛い可愛い恋人
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