て悲鳴を上げ沼とは反対の方角へ足を空にして走り出した。すると一度に山羊も猿も私の後から叫びながら気狂いのように走って来た。
 私のその時の恐怖と云ったらその夜全身発熱して二日というもの小屋の中から一歩も戸外へ出られなかったというそういう事実に徴しても知れる。全くそれは私にとっては産まれて初めての恐怖であった。
 しかし間もなくその次に起こった「あり得べからざる奇怪の事件」「人類学上の一大奇蹟」その怪事件に比較してはほとんど恐怖とは云えないかもしれない。
「人類学上の一大奇蹟」! それはいったいいつ起こったのかというに、鹿を呑む大蛇を眼に見てから十日ほど経ったある日のことで、その日私は小屋に籠もって煙草ばかりポカポカ吹かしていた。小屋の外では山羊や猿や独唱好きの小鳥などが、私を呼び出そうとするかのように賑やかに絶え間なく喋舌っている。風もないかして林の中は森然《しん》と静まり返っている。
 彼らの呼び出しに応じようともせず私はいつまでも室にいた。
 するとにわかに彼らの声が糸を切ったように断ち切れた。糸を切ったように絶えた時にはいつでも恐ろしい彼らの敵が彼らを襲う時である。何物が襲って来
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