…箱から現われ出た大猩々《おおしょうじょう》! 私はそのまま気絶して再び呼吸《いき》を吹き返した時には四辺は寂然《しん》と静まり返り、一人さっきの欧羅巴《ヨーロッパ》人が死んだように倒れているばかりだ。私の負傷は軽かったので疲労《つか》れた足を引きずり引きずり、汽船の料理人《コック》部屋へはいり込んで深い眠りに墜ちてしまった。
航海は大変無事であった。台湾海峡も事なく通りやがて香港《ホンコン》へ到着した。南支那海を南東に向けて再び航海は続けられた。フィリッピン群島を左に見て英領ボルネオの首府サンダカンへ次第次第に近寄って行った。航海はこれまでは無事であった。しかし偶※[#二の字点、1−2−22]《たまたま》ラブアン島辺へ正午頃船が差しかかった時突然大難が起こったのであった。すなわち、海賊――袁更生の船が汽船を沈没させたのであった。
私は海へ飛び込んだ。鮫《さめ》や悪魚の住んでいる海へ。それでも私は喰われもせずしばらくの間泳いでいた。その時|短艇《ボート》がどこからともなく私の側へ漂って来た。疲労《つか》れた手足を働かせて私はボートへ這い上がった。人影はなくて肉の砕片が真紅に船底を濡
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