寂然と静まり返り、河の下流へ眼を注いで何物かを待っているらしい。遙か彼方の対岸の方にも血のように赤い燈光がさも物凄く点っている。その物凄い燈光とこっちの赤い燈光とは合図し合っているらしい。
四辺《あたり》は寂然《さびしく》ひそまり返り、諸所《あちこち》の波止場《はとば》や船渠《ドック》の中に繋纜《ふながか》りしている商船などの、マストや舷頭に点《とも》されている眠そうな青い光芒も、今は光さえ弱って見えた。どこやらの時計台で幽《かす》かに午後九時の時刻《とき》を報じている。
支那船《サンパン》の中の一団は依然として静かで無言である。やっぱり下流を眺めている。木蔭に隠れているラシイヌも位置から動こうともしなかった。彼らの様子を眺めている。
こうして幾時間経たろうか、時計台の時計はその度ごとに陰気な音を響かした。こうして時計が午前三時を物憂く三つ打ち終えた時、下流の方から闇を分けて一隻の船があらわれた。小型ではあるがその代わり速力の速やそうな商船《ふね》である。その商船の速力はやがて徐々に緩るくなった。緩るい船脚を続けながら支那船《サンパン》を凌《しの》いで行き過ぎたが、ほんの五、六間
前へ
次へ
全239ページ中134ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング