》が静かに動いて、一町あまり隔たっている小さい桟橋の方角へ、人眼を忍ぶように辷って行く。
そうして桟橋へ着いた時、船の中にいた支那人どもは、一人一人桟橋へよじ登った。二十人あまりの人影が、墨のように橋の上へ塊《かた》まった時、一個《ひとつ》の大きな黒い箱が船の中から持ち上げられた。桟橋の上の人影が、揃って前へ手を突き出し、その黒い箱を受け取った。するとまたもや船の中から、ゾロゾロ人影が現われて桟橋の上へよじ登ったが、一個の箱を肩に支え、その箱をみんなで取り巻いて、神前へ捧げる御輿《みこし》のように、敬虔《けいけん》な態度で歩いて行く。
「さあどうもこいつは解らない」
ラシイヌは胸へ腕を組んで、渋面を作って呟いた。それから楊柳の蔭を出て、御輿の後を追いかけたが、思い出して腕時計を眺めると、彼は追うのを中止した。
もう十分で八時である!
彼は御輿と腕時計とを代わる代わるに見比べてしばらくじっと考えていたが、決心がついたというように、グルリと体の方向を変え、大速力で走り出した。
公園へ向かって走るのである。
黄浦河とそして呉松《ロウソン》江とが、相合流する一角に、居留地の公園は立
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