ね。それまでは君も辛棒して、博士の室へでも行っていて、八時になったら出て行くさ。それまでに僕も僕の用を片付けて置くことにしようかね。もっとも僕の用というのは、街をブラツクことだけれど」
 ラシイヌは室を出て行った。それから彼はホテルを出て、県城指して歩いて行った。

        十八

 あるいは「東洋の紐育《ニュウヨーク》」もしくは「東洋の桑港《サンフランシスコ》」――こう呼ばれている上海《シャンハイ》も、昔ながらの支那街としての県城城内へ足を入れれば、腐敗と臭気と汚穢《おわい》とが、道路《そと》にも屋内《うち》にも充ち満ちていて、鋭い神経を持った人は近寄ることさえ忌み嫌った。
 そういう不潔の城内を差してラシイヌは歩いて行くのであった。しかしラシイヌは目的地へすぐに行こうとはしなかった。彼は自分のいる英租界を、黄浦河に沿って悠々と、仏租界の方へ歩いて行った。彼の道順には租界中での一番賑やかな街筋が――すなわち黄浦河の岸上の街《まち》と、蘇州渓の街とが軒を並べ、街路整斉と立っている。街には人が出盛っていた。馬車、自動車は鈴を鳴らし、広い車道を馳《はし》って行く。三層五層の大厦の窓
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