思いますの。どうでしょうほんとに眼の縁《ふち》だけ燐のような光に輝いている大きな犬のような動物が、良人《おっと》の居間の窓の枠へ前足を二本しっかりと掛けて、硝子《ガラス》戸越しに主人の居間を覗き込んでいるではございませんか。あやうく叫び声をあげようとしてやっと私は声を呑み、狂人《きちがい》のように手を揉みながら、じっと聞き耳を立てました。良人の室から嗄《しわが》れた良人の言葉が洩れましたからで……
―― ROV《ロブ》! 湖! ――埋もれた都会! ……帰ってくれ帰ってくれ恐ろしいコ……マ……イ……ヌ――。
嗄れた良人の声の中から私に聞き取れた言葉と云えばただこれだけでございました。それとて私には何んのことだかちっとも意味が解りませんでしたけれど――主人が喋舌《しゃべ》っている間中、怪獣は身動き一つせず、じっと聞き澄ましているのでした。主人の声が途切れた時突然怪獣は飛び上がりました。そうして一本の前足を硝子戸の枠へ掛けたかと思うと、どうでしょうスルスルと硝子戸が、横へ開いたではございませんか。良人は叫び声をあげました。そうして床へ倒れたと見えて、ドシンという音が聞こえて来ました。その
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