の中は黄金のように輝いている。
老人は二つの箱を出して、湖水の水を注ぎかけた。そして大神を讃え出した。
「アラ、アラ、イル……」と熱心に。
動くともない湖水の水がその時渦を巻き出した。渦の中心に船がある。船が急速に廻り出した。と、砂山の一方の岸が見る見る崩れてその跡へ洞窟のような穴があいた。水がその洞へ流れ込む。いつしか船も流れ込んだ。忽然と四辺《あたり》が暗くなり一筋の陽の光も見えなくなった。エルビーが私に縋りつく。老人は闇の中で祈っている。
「アラ、アラ、アラ、アラ、アラ、アラ、イル……」
船はずんずん流れて行く、地下の水道を矢のように……(備忘録下略)
九
「張の姿が見えないぞ!」
朝早くレザールが叫び出した。マハラヤナ博士もラシイヌもその声に驚いて飛び起きた。沙漠の暁の薄光が天幕《テント》の中へ射している。彼らは真っ先に球を納《い》れた鉄の手箱をさがしたが、その影さえも見えなかった。一行三十人の人々は手を分けて張を探したがどこにも姿は見えなかった。みんな絶望して溜息をついてそして沈黙に落ち入った。
「信用したのが悪かったね。今さら云っても返らないが」ラシイヌの声は憂欝だ。
「彼奴《きゃつ》はいったい何者だろう? 仏蘭西《フランス》語が出来て英語が出来て料理が上手で度胸がある。西域の地図を持っていた――ただの鼠じゃなかったんだ」レザールの声は泣きそうだ。ひょうきん者のダンチョンさえ黙って地面を見つめている。
しかしいつまでそうやっていても張の出て来るきづかいはないので、またも一同立ち上がって彼の行衛をさがしだした。今度は幾組かに組を分け四方へ一度に出て行った。
ラシイヌと博士との一行は同勢八人が一団となり東北をさして探しに出た。わずか一里ほど行った時意外にも一つの村へ出た。常磐木《ときわぎ》が青々と茂っている、泉が地面から湧き出ている。村には一つの祠《ほこら》があって狛犬が二匹並んでいる。
「ははあ市長が水晶の球と羊皮紙とを発見《みつけ》た祠というのは、ここにあるこの村の祠だな。しかしこんなに手近な所に緑地《オアシス》があろうとは思わなかった。恐らく張の逃げ込んだのもこの緑地《オアシス》に違いない」ラシイヌは心でこう思ったので土人を無理に引っ捕らえ博士の通弁で質問した。
「はい逃げ込んで参りました」冷笑しながら土人は云った。
「
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