姿を現わすのを待っているかのように、勢い込んで唄うのであった。
ラシイヌはゆるやかに歩みながら、捨て目捨て耳を働かせて、彼らの様子を窺った。そうして心で罵った。
「フン、いくらでも唄うがいい、巨魁来巨魁来巨魁来か! どんな巨魁だかこの俺にはちゃあんと解っておいで遊ばすのだ。どんな野郎が来たところでこの鼻ちゃんは驚かない。どんな野郎でもとっ捕えて見せる。俺達の目的を妨げる奴は張三李四のお構いなく地獄の釜の中へたたき込んで見せる?」
ラシイヌはそれから尚しばらく、城内をブラブラ彷徨《さまよ》ってから、黄浦河の岸へ出て行った。
県城とそして三つの租界を、東の岸に立たせたまま北へ流れる黄浦河は、水こそ黄色に濁ってはいるが、その河幅は二百間、無数の商船や軍艦や支那船《サンパン》を満々たる水に浮かべ、揚子江に向かって流れている。目星い大きな工場は、いずれも河の東岸にあって、巨大の煙突、急傾斜の屋根が、空を蔽うて林立し、重い起重機を動かす音や猛獣のような汽笛の音や、のんびりした支那流の掛け声などが、煤煙《ばいえん》の空に響いている。オリエンタル船渠《ドック》の工場からは鉄槌の音が聞こえてくるし、対岸に孤立して立っている董家造船所のドックからは汽罐の音が聞こえて来る。
ラシイヌは河岸を米租界の方へ耳を傾《かし》げながら歩いて行った。そのうちに焼け爛《ただ》れた砲弾のような太陽がグルグル廻りながら、平野の地平《はて》へ没してしまって、間もなく四辺《あたり》は暗くなった。遙か県城の方角に当たって、関門を鎖ざす軋り音が、一日の終りを告げるかのようにさも重々しく響いたが、その音と一緒に諸所の工場から蟻の群でも出るように職工達が現われた。疲労《つか》れた声音で挨拶をしてちりぢりに四方へ散って行く。その後は森然《しん》と静まり返り夜業をすると見えてある工場の、二つの窓から火の光が戸外にカッと洩れて来るのさえかえって寂しく思われた。
四辺《あたり》は森然と静かである。
その時、ラシイヌが歩いている河岸の下の水面から、元気のよい唄声が聞こえて来た。それは、やっぱりあの[#「あの」に傍点]詩である。
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古木天を侵して日已に沈む
…………
…………
巨魁来巨魁来巨魁来
[#ここで字下げ終わり]
ラシイヌはちょっと眉をひそめ、足下の水面をすかして見た。巨大の支那船《サ
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