天狗俳諧をやっていた。
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刀売おどろいて見し刄傷沙汰
木魚打つ南無阿弥陀仏新左殿
南無三宝夜はふけまさる浪士なり
京つくし野を馬曳きて吠える犬
天が下はるばるかかる鯨売
蚊遣立って静かに伝ふ闇夜かな
蚊柱の物狂ふなり伏見城
京伏見経机ありあはれなり
辻斬の細きもとでや念仏僧
鬼瓦長し短し具足櫃
忍術の袈裟かぶり行くほととぎす
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こんな名吟が続出した。
で、みんなドッと笑い、ひどく陽気で可い気持であった。
で、秀吉が不図見ると、細川幽斎と新左衛門との間に、見慣れない人間が坐わっていた。
黒小袖を着、黒頭巾を冠り、伊賀袴を穿き、草鞋を[#「草鞋を」は底本では「草蛙を」]をつけた、身真黒の人間であった。いつ来たものとも解らなかった。誰一人気が付いた者がなかった。
ギョッとして秀吉は声をかけた。
「貴様は誰だ! 何者だ!」
すると其の男は一礼したが、
「小笠原民部でございます」
それは「忍術十人衆」の、小笠原民部一念斎であった。
「おお民部か、これはこれは」苦笑せざるを得なかった。
「何時何処から這入って来たな? いやいやお前は忍術《
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