疲労困憊その極にあった。しかも今も切りかかって来ている。そこへ兄であり恋人であり、許婚《いいなずけ》でもある主水の姿が見えなくなってしまったのである。
恐怖、不安、焦燥、落胆!
フラフラと倒れかかった。
「くたばれ――ッ」とばかりそこを目掛け、博徒権六が切り込んだ。
あやうく反わしたが躓《つまず》いて、澄江はドッと地に倒れた。
「しめた」と峯吉が切り下ろした。
パ――ッ! 倒れた姿のままで、早速の気転土を掬い、澄江は峯吉の顔へ掛けた。
「ワッ」
よろめき眼を抑え、引いたのに代って八五郎が、
「洒落臭え女郎!」と突いて来た。
ゴロリ! 逆に八五郎の方へ、寝返りを打って片手を延ばし、八五郎の足の爪先を掴み、柔術の寝業、外へ捻った。
「痛え!」
悲鳴して倒れた途端に、澄江は飛び起きフラフラと走り、
「お兄イ様ア――ッ」と悲しそうに呼んだ。
が、これがほとんど最後の、彼女の懸命の努力であった。
二間あまりも走ったが、不意に立ち止まるとブルブルと顫え、持っていた懐刀をポタリと落とし、あたかも腐木が倒れるように、澄江は地上へ俯向けに倒れた。
意識が次第に失われて行く。
その消
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