、武州には小金井の牧場があり、牧馬や、牧牛が盛んでありますから、その間に牧主や博労衆などと、来年の馬市の交渉などを、なさいますそうでございます」
「それはまあそうだろう」
「多々羅遊びをなさいまして、上尾の宿を潤しますので、馬大尽がおいでになったと聞くと、宿の人達は大喜びで、お祭のようにはしゃぎ[#「はしゃぎ」に傍点]ます」
「ところで馬大尽の同勢の中に、浪人風の武士がいたが、あれは一体何者かな?」
「用心棒でございますよ、猪之松親分の賭場防ぎの」
「で、何という姓名の者か?」
「さあ何と申しますやら、ああいう浪人衆は一人や二人でなく、猪之松親分の手許などには、五人六人と居りまして、居たかと思うと行ってしまい、行ったかと思うと新しいのが来る。いつもいつも変わりますので」
知りたいと思った肝心のことが、これでは一向知れなかった。主水《もんど》も澄江《すみえ》も失望したが、とにかく明朝宿を立ち、高萩へ行って猪之松親分を探り、さっきの武士が陣十郎か否か、確かめて見ようと決心した。
ちょうどこの夜のことであった。
高萩の猪之松と張り合っている、赤尾の林蔵は乾児の藤作や、杉浪之助と連れ立
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