て、黒くひっそりと立っていた。屋根の瓦が水のように、薄白く淡く光っているのは、空に遅い月があるからであった。
その建物を巡りながら、幾人かの人影が動いていた。
寝所へ入った馬大尽嘉門に、もしものことがあったら大変――というので猪之松の乾児達が、それとなく警護しているのであった。
池では家鴨《あひる》が時々羽搏き、植込の葉影で寝とぼけた夜鳥が、びっくりしたように時々啼いた。
が、静かでしん[#「しん」に傍点]としていた。
主屋でも客はおおよそ帰り、居残った人々も酔仆れたまま、眠ったかして静かであった。
離座敷の内部《うち》の一室《ひとま》。――そこには屏風が立て廻してあった。
一基の燭台が置いてあり、燈心を引いて細めた燈火《ひかり》が、部屋を朦朧と照らしていた。
屏風の内側には箱から出された生贄の女澄江の姿が、掛布団を抜いて首から上ばかりを、その燈火の光に照し出していた。
そうしてそれの傍には、嘉門が坐っているのであった。
澄江の心はどうであろう?
義兄《あに》であり恋人であり許婚《いいなずけ》である、主水とゆくゆくは婚礼し、身も心も捧げなければならぬ身! それまで
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