ある金屏風に、その燈火《ひ》が映り栄えて輝いている様は、きらびやかで美しく、そういう座敷の正面に、嵯峨野を描いた極彩色の、土佐の双幅のかけてある床の間、それを背にして年は六十、半白の髪を切下げにし、肩の辺りで渦巻かせた、巨大な人間が坐っていたが、馬大尽事井上嘉門であった。日焼けて赧い顔色が、酒のために色を増し、熟柿《じゅくし》を想わせる迄になって居り、そういう顔にある道具といえば、ペロリと下った太い眉、これもペロリと下ってはいるが、そうしてドロンと濁ってはいるが、油断なく四方へ視線を配る、二重眼瞼の大きい眼、太くて偏平で段のある鼻、厚くて大きくて紫色をしていて、閉ざしても左の犬歯だけを、覗かせている髭なしの唇に、ぼったりと二重にくくれている顎、その顎にまでも届きそうな、厚い大きな下った耳であった。身長《せい》も人並より勝れていたが、肥満の方は一層で、二十四五貫もありそうであり、黒羽二重の紋付に、仙台平の袴をつけ、風采は尋常で平凡であったが腹の辺りが太鼓のように膨れ、ムッと前方に差し出されているので、格好がつかず奇形に見えた。曲※[#「碌のつくり」、第3水準1−84−27]《きょくろく》
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