の勝手元へ姿を現わしたのは、浮かない顔をした陣十郎であった。
「これはいらっしゃい水品先生、こんなに遅くどうしたんですい?」
こう云って声をかけたのは、猪之松にとっては一の乾分――上尾街道で浪之助などに追われ、逃げ廻る弱者の峯吉ではなく――角力上り閂《かんぬき》峰吉であった。
「遅いか早いかそんなことは知らぬ。陽気だな、これは結構」どこかで飲んで来たらしく、陣十郎は酔っていたが、凄い据わった血走った眼で、ジロジロ四辺《あたり》を見廻わしながら、上ろうともせず随分邪魔な、上框《あがりかまち》へデンと腰かけ、片足を膝の上へヒョイとのっけ、楊子で前歯をせせり出した。
2
(ご機嫌が悪いぞ、あぶないあぶない)
酒癖の悪いのを承知の一同、あぶないあぶないと警戒するように、互いに顔を見合わせたが、こんな時にはご自慢の情婦《おんな》――お妻を褒めるに越したことはないと、唐子の音吉というお先ッ走りの乾児が、
「姐御、どっこい、奥様だったっけ、奥様お見えになりませんが、一体全体どうしたんで、こんな時にこそご出張を願って、あの綺麗で粋なご様子で、お座敷の方を手伝っていただき、愛嬌を振り蒔いていただけ
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