りに……」
「何の彼如き鬼畜の痴者に、妹を、妹を渡してなろうか?」
「そういう男でござります。そういう男の陣十郎を、何で妾ひとりだけが……先が先ならこっちもこっち……主水様! 今は貴郎様へ!」
「それにいたしても、妹澄江は……」
「お許婚の澄江様は……」
「上尾街道のあの修羅場で、馬方博徒数名の者に、担がれ行かれたと人の噂……」
「人の噂で聞きましたなア……さあそのお許婚の澄江様……澄江様のお噂さえ出れば、眼の色変えてお騒ぎになられる」
「妹であれば当然至極!」
「可愛い可愛いお許婚なりゃ、脳乱[#「脳乱」はママ]遊ばすもごもっとも? ホ、ホ、ホ、その澄江様、どうで担いだ人間が、馬方博徒のあぶれ者なら? ……」
 しかしその時表の庭の、方角にあたって云い争う、男の声が聞こえてきた。
「や、あの声は?」
「おおあの声は」
 二人ながら森《しん》と耳を澄ました。

 陣十郎は弁三を突きのけ、村道から境の生垣を越え、表の庭へ入って行った。
「云い古されたセリフだが、俺の遣る金鼻薬は、小判じゃアねえドスだ延金だアッハハ、驚いたか望みならば――ズバッと抜いて、先刻も云った口から腹まで、差し込んで
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